「地域のために頑張るんだよ」

幼い頃、祖父から言われた言葉だ。

当時は、その意味をよく理解していなかった。

振り返ると、祖父は地域の活動に熱心な人だった。周囲からは「ながちゃん」と呼ばれ、多くの人に親しまれていた。

その言葉の意味を改めて考えるようになったのは、新聞社で働いていた頃だった。

ある日、地元の公民館で開催されていた作品展を取材したことがある。

取材の途中、主催者の方から「どこに住んでいるの?」と聞かれた。住んでいる場所を伝えると、その方は少し驚いたような表情をして言った。

「えっ、ながちゃんの孫なの?」

話を聞くと、その方は祖父にお世話になったことがあるという。そして、初対面の私にも、まるで昔から知っているかのように親切に接してくれた。不思議な感覚だった。

祖父はもうこの世にはいない。それなのに、祖父が生きてきた足跡が、地域の中に確かに残っていた。

あのとき、祖父から「地域のために頑張れ」と言われたことは、私へのギフトだったのかもしれないと思った。

「地域のため」は難しい

ただ、私は今でも「地域のため」という言葉を簡単には使えない。

なぜなら、地域のためになっていない仕事の方が少ないと思うからだ。

地域で企業が活動すれば、税金が納められる。地域で働き、暮らし、お金を使うこと自体が、地域を支えているとも言える。

では、東京や首都圏で働くことは地域のためではないのだろうか。

もちろん、そんなことはない。

生産性を高めるため、夢を叶えるため、好きな仕事をするために都市へ集まる人たちがいる。その人たちの仕事が、この国全体を支えている。

地方で働くことだけが「地域のため」ではない。

だからこそ、この言葉はとても難しいのだと思う。

地域にしかないもの

新聞社で地域を取材し続ける中で、私は「地域とは何か」を考えるようになった。

最初は、人こそが地域の魅力だと思っていた。

でも、あるとき考えた。

人はどこにでもいる。

人口が減り続ける地方で、人だけを地域の差別化要因にすることは難しいのではないか、と。

一方で、人に興味を持つのもまた人だ。

面白い人はどこにでもいるし、その人を面白いと思えるかどうかも、自分自身次第なのかもしれない。

そのうえで、私がたどり着いたのは、その土地ならではの景色や風土、歴史や文化の存在だった。

新聞社に勤務した頃に執筆した石巻の昔話について

海があり、山があり、川がある。

その自然の中で、人々が暮らし、食文化が生まれ、地域ごとの歴史が積み重なっていく。

そうした積み重ねこそが、その地域にしかない価値なのではないかと思うようになった。

山も、川も、海もあるのが石巻の魅力の一つ

石巻が石巻である理由

日本は、かつてないほど一極集中が進んでいる。

人口減少が続き、将来的に消滅してしまう地域もあると言われている。

そんな時代だからこそ、私は思う。

石巻が、なぜ石巻なのか。

先人が執筆した石巻の伝説がまとまった本(石巻市図書館蔵)

この地域にはどんな歴史があり、どんな文化があり、どんな人が暮らしてきたのか。

その理由を探し続けることが、地域を愛することにつながるのではないかと。

そして、その地域が誇れるものを見つけ、多くの人に伝えていくこと。

地域の価値を見つけ、人と人をつなぎ、地域が地域であり続ける理由をつくること。

それが、いま私が考える「地域のため」なのだと思う。